本と映画のセレクト

8人が選ぶ本と映画

ライター太田明日香

飢えないためには
植えるしかない

ライター

太田明日香おおた・あすか

著書に『愛と家事』(創元社、2018年)。DIYスピリットを忘れず消費社会をサバイブするためのヒントを提案する自主制作雑誌『B面の歌を聞け』発行人。日本の都市農園についても取材したいので情報募集中。

太田明日香

撮影/平野愛

太田明日香さんの4冊と1本

  1. 1

    映画『楢山節考』

    今村昌平監督(1983年)

  2. 2

    『稲の大東亜共栄圏 帝国日本の〈緑の革命〉』

    藤原辰史 著(吉川弘文館/1,870円)

  3. 3

    『原発事故と「食」 市場・コミュニケーション・差別』

    五十嵐泰正 著(中公新書/902円)

  4. 4

    『クリーンミート 培養肉が世界を変える』

    ポール・シャピロ 著、鈴木素子 訳(日経BP社/1,980円)

  5. 5

    『シティ・ファーマー 世界の都市で始まる食料自給革命』

    ジェニファー・コックラル=キング 著、白井和宏 訳(白水社/2,640円)

今年亡くなった歌手の坂本スミ子さんは今村昌平版の『楢山節考』で自ら歯を折る老婆・おりんを演じた。生産力のない江戸時代の寒村では70歳になれば口減らしのため、山に捨てられる。老人に歯があるのはまだ生きる力がある証拠で、それを恥じておりんは歯を折ったのだ。

映画の舞台になった時代からうん百年、老人の歯は健康の証になった。そうなったのはこの国にそれだけの生産力がついたからだ。近代日本において食料増産に一役買ったのは米だ。『稲の大東亜共栄圏』には米の品種改良により台湾から北海道まで米が生産できるようになったとある。

こうして生産力が上がったおかげで、現代では当たり前のようにスーパーに食べ物が並び、それを買える経済力さえあれば飢えない時代になった。しかし、生産力が上がったからといって安心なわけではない。

『原発事故と「食」』にあるよう、2011年には消費者は原発事故の影響で食べていいかわからない不安に脅かされたし、現在のコロナ禍では食べ物が買えず困っている人が多くいる。さらには『クリーンミート』にあるような動物細胞から作られた培養肉が開発されることで、今まで当たり前に手に入った食べ物が贅沢品になる未来もありうる。今後さらなる気候変動により、これまでの農法が成り立たなくなることもあるだろう。人類はいまだ飢えに脅かされている。

打つ手はあるのか。

世界の都市農業の現場を歩く『シティ・ファーマー』には、都市で農業する人が登場する。スラム街の空き地を農地にし、ビルの屋上で養蜂し、都市の真ん中にコンテナを置いて果樹園を作り、空きビルの中で魚を養殖し、都市のあらゆる隙間を利用して食料の生産を目指す。

飢えないためには植えるしかない。しかし、地方移住して農業はもとより市民農園すらハードルが高い。とりあえずベランダ園芸くらいから始めよう。

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