本と映画のセレクト

8人が選ぶ本と映画

発酵デザイナー小倉ヒラク

独自の食文化の根を
紐解く

発酵デザイナー

小倉ヒラクおぐら・ひらく

山梨の山の中で菌を育てながら暮らしている。
オールアバウト発酵の店[発酵デパートメント]オーナー。来年9月から福井で大規模な展覧会やります。近著に写真集『発酵する日本』(AoyamaBook Cultivation、2020年)。

小倉ヒラク

小倉ヒラクさんの3冊と2本

  1. 1

    『神饌 供えるこころ』

    倉橋みどり 著、野本暉房 写真(淡交社/1,980円)

  2. 2

    『すしの本』

    篠田統 著(岩波現代文庫/1,100円)

  3. 3

    映画『千年の一滴 だし しょうゆ』

    柴田昌平監督(2014年)

  4. 4

    『茶の世界史 緑茶の文化と紅茶の社会』

    角山栄 著(中公新書/836円)

  5. 5

    映画『タンポポ』

    伊丹十三監督(1985年)

日本では古代から「食べること」が国の統治に関わる重要なもの。が、その具体的な製法や味は文献にはほとんど残されていない。となると、現存しているレシピや祭儀、大陸アジアの文献から紐解いていくことになる。

『神饌(しんせん)』は明治の神道再編成以前のかたちを残した奈良の神饌(神に食事を供える祭儀)の写真集だ。色とりどりの果物や餅を幾何学状に積み上げたり、人間の頭骨を模した人形を供えたり(おそらく人身御供の名残だろう)、野生的な食の祭儀が垣間見える貴重なアーカイブだ。『すしの本』では、実は、寿司がアジアの山間地のサバイバル食から始まったことを解き明かされる。タンパク質を効率的に保存するためのキーポイントが「酸」であり、それがやがて「酸っぱし=すし」になり現代の江戸前寿司に変容していく。

映画『千年の一滴』では、大陸からもたらされた醤(ひしお)や、禅の文化がどのように和食になっていったかを美しい映像で紐解く。カビを培養して発酵を緻密にコントロールする技法など、幾世代にも渡る工夫が日本独自の食文化をつくりあげていった。

『茶の世界史』では、緑茶と紅茶をキーワードに茶が世界中に伝播していった歴史を考察する。刮目すべきは後半、日本の緑茶が近代の貿易競争に破れ、国内消費主体のローカル文化になっていった過程である。結果的に日本はグローバルな食の市場形成からは阻害された「食のガラパゴス国」になっていった。

『タンポポ』は夫に先立たれた中年女性が様々な専門家の力を借りながら家業のラーメン屋を立て直す伊丹十三流のカルト映画。元々中国から来たラーメンが日本人好みに最適化し、さらにフェティシズムの対象になっていることがよくわかる怪作だ。今、世界各地で日本式のラーメン店の人気が高まっている。大陸由来のものをガラパゴス変形させた和食は、その奇矯さゆえに海外でもカルトな人気を誇るようになったのだった。

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