関西からニッポンフードシフト
—新メニューが生まれた秘話に迫る!—

洋食ダイニング[あじと]と
なにわ黒牛の出会い。

取材・文/松本賢志 
写真/岡本佳樹

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大阪で生まれた女(雌)です。

[洋食あじと]のハンバーグが極あら挽きになって生まれ変わった。
そのきっかけは、大阪産黒毛和牛の『なにわ黒牛(※)』だった。
なにわ黒牛との出会い、素材として選んだ理由、
そして10年間の試作の末、完成したハンバーグのことを聞いた。

10年越しの悲願。
「なにわ」に見つけた感動の味。

大阪市内から車で南に約1時間。ぴちぴちビーチを擁す阪南市の山あいを進むと、のどかな景色にポツンと現れるのが、日本で唯一ここにしかない、なにわ黒牛の肥育牧場だ。牧場主の松田武昭さんは、大阪食肉市場の職員として全国の牧場を巡り、黒毛和牛の肥育方法を指南してきた畜産界のレジェンド。しかし11年前、長年蓄積してきたノウハウを自らの手でも実践・証明し、等級ではなく味で勝負できる和牛を後世に残したいと、育てる側に電撃転身を果たした。

そんな松田さんの牧場を、[あじと]の面々が初めて訪ねたのは昨春のこと。名物ママの佐藤深幸さんに聞くと「緊急事態宣言の休業期間を意義ある時間にしたかったし、値段にしばられず、妥協のない素材で勝負したいって思いが年々強くなってきてたのもあって、意を決して足を運んでみたんです」と。して、松田さんの育てた牛のお味は?

「もう10年ぐらい試行錯誤しながら、いろんなお肉でハンバーグを作ってきたけど、ひと口食べて感動したのは、なにわ黒牛が初めて。旨みの絶対値が違った」。[あじと]のパパさんこと佐藤敬太さんは「経験したことのない優しい旨みを感じたんです。第六の味覚って、実はこれなんじゃない? って思うぐらいの」と大感動。

※なにわ黒牛って?
仔牛の段階で選りすぐった黒毛和牛の雌だけを、大阪は阪南市の牧場で月例30カ月以上まで長期肥育した、大阪産の銘柄牛。19年に開催された『G20 大阪サミット』の晩餐会では、世界の首脳にも振る舞われたことでも話題に。

「なにわ黒牛は誰に対しても人懐っこい」と牧場の山本剛平さん。大切に育てられている証だ。牛たちの胃が健康な状態に保たれているので、牛舎にイヤな臭いなども皆無。

牛はひと枠に4〜5頭でのんびり!

「おいしそう」な肉ではなく
本当に「おいしい」肉を目指して。

「とにかく牛にとって居心地の良い環境を作る。そして健康な胃になるよう、仔牛の時に上質な青草をたっぷり食べさせてあげる」。松田さんが牛を育てる時に大切にしていることだ。肥育に欠かせぬ配合飼料も低カロリーで負担の少ないものを与えるゆえ、一般的な和牛より半年も長く肥育期間を要すが、「本来の肉の味というのは、その期間に作られる甘みなんです。そして、肉は生きたまま熟成させる。それが鉄則!」と。もしも筆者が生産者なら、掛け軸にしたためて床の間に飾っておきたいほどの金言だ。

さらに、なにわ黒牛で驚きだったのが、育てた牛の流通方法。なんと枝肉市場には出さず、営業から販売までを自分たちで賄うというのだ。しかも「配達まで自分たちでされますからね。定期的に顔を合わせてお話しできて、僕らも安心して使えます。それに、使いたい部位を使いたい量だけ納品してもらえて、肉を無駄にしなくていいのもうれしいです」と[洋食あじと]の料理長・澤田正シェフ。食肉業界の常識を覆すスタイルだが、営業担当の山本剛平さんによると「市場に出すと見た目の勝負になって、結局は等級の高い牛が評価されるんです。僕らが追求してるのはおいしいかどうかで、それを決めるのは卸先の飲食店様であり、食べてくれたお客様。自分たちで納品まで行けば、皆さんの反応とかを直で聞かせてもらえるでしょ。それが課題にもなり励みにもなるんです」。

(上写真左)右から、牧場社長・松田さん、[あじと]深幸さん、澤田シェフ。

トウモロコシやふすまや大豆の搾りかすなどを独自の配合でブレンドした飼料には、成長促進剤などの添加物は一切使用しない。

この飼料のおかげで脂があっさり!

“極”あら挽きで極める
なにわ黒牛の濃厚な余韻。

この“感動”の出合いから1年少々。[洋食あじと]のハンバーグが今年7月、ついにめでたく生まれ変わった。肉はもちろん、なにわ黒牛100%。

初めて食べた時に驚かされたのは、ハンバーグでありながらステーキのような食感も楽しめる、目の覚めるようなあら挽き具合。それゆえ歯応えのあるスジの部分に出くわすこともあったりするが、それとて噛みしめるごとに溢れ出す強い旨みの源と思えば愛おしい。そして何よりなにわ黒牛のポテンシャルを思い知らされたのが、とてつもなく長い旨みの余韻。「その余韻も含めて、なにわ黒牛をたっぷり味わって欲しい」と、ハンバーグは1個250gのボリュームなれど、ストレスなくゆっくり育った牛は、人の体にも負担をかけないってことを、いつの間にやらお腹に消えているハンバーグが教えてくれるはず。しかも、食べ終わった後も非常に軽やか。

御年90歳のお客さんに「生涯で一番おいしかった」と言わしめたその味。まずは何もつけずに「そのままでどうぞ」。

旨みの濃ゆい部位を選りすぐった粗挽きミンチには、なにわ黒牛のチチカブも加えて練り込む。〝極〟あら挽きハンバーグは写真の250gが1,980円。食べきりサイズ180g1,680円も。

塩と特製ソースでもお試しあれ!

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