明治末期の北海道を舞台に、アイヌ民族を描いた人気漫画の登場人物として描かれたことから、注目を集めたのが「マタギ」です。マタギは、クマやシカなど野生動物を集団で狩猟したり、川魚やキノコ、山菜などを採取したりする人たちのことで、伝統的な狩猟法によって里山で野生動物が害を及ぼさないよう、適正に管理をしてきました。マタギの発祥の地とされる秋田県北秋田市には、今も他県から移住した若者たちが伝統を受け継ぎながら、地域住民の暮らしを守っています。
北秋田市阿仁地区は、県北部に位置し、冬の積雪は2メートルに及ぶなど、県内有数の豪雪地帯。阿仁地区はマタギ発祥の地とされ、ここから東北地方に広がったとも言われています。マタギは、野生動物はもちろん、イワナやヤマメなどの川魚、キノコや山菜など1年を通して手に入れられる山の恵みを「授かりもの」と呼び、授かったものは余すところなく大切に利用してきました。昔のマタギは、授かりものを換金して生計を立てており、中でもクマは毛皮、肉、内臓など利用部位が広く、クマの胆のうは「熊の胆(い)」と呼ばれる高価な薬品として取引され、大きな収入源となっていました。しかし、時代の変化でクマの需要が減ってマタギを生業とするのは困難になり、昭和40年代、阿仁地区には80人が活動していましたが、現在は半分以下に。そのため現代のマタギは、農業や自営業、勤め人など、兼業で活動する人がほとんどで、クマの目撃情報や被害実態を基に自治体から要請を受けて、野生動物の駆除をするケースが大半を占めています。駆除する場合は昔のように野山を駆けるクマを銃で撃つのではなく、「箱わな」と呼ばれるおりを仕掛けて捕獲。その後、安全な環境で処理し、授かりものとして利用しています。
山梨県出身の木村望さんと広島県出身の益田光さんは、共に東京の大学を卒業後、移住してマタギになりました。2018年に移住した木村さんは、農業をしながら古民家を改造した農家民宿を経営、19年に移住した益田さんは阿仁の森に繁殖する野生のオオバクロモジの葉や枝、幹など全ての部位を使ったクロモジ茶を加工・販売しています。二人ともいわば「兼業マタギ」で、先輩たちの足元にも及ばないと謙遜しますが、「阿仁に住み続けるためにも本業を確立させたうえで、もっと山を学んでマタギ文化を伝えていきたい」と同じ思いを抱いています。