大阪府高槻市でベーカリーを営む高谷直樹さんは、先祖から受け継いだ田んぼで自ら栽培した米を粉にして、地元産米を使ったパンや麺、米粉製品を販売しています。水田が広がる美しい景観を残したいとの思いから始まった、米粉の商品開発はパンを起点に、米粉製品、麺へと広がりました。コメ作りから携わることで、景観保全、地産地消、コメの消費拡大、食料自給率向上など、食や農業を取り巻く課題や改善策を導けると、地域の期待も高まっています。
大学卒業後、会社勤めをしていた高谷さんは2000年、家業のベーカリーと祖父の田んぼ20アールを継ぐことになりました。自宅とベーカリーがある清水地区は、夏になるとホタルが見られるほど、美しい水田が広がっています。一方で、農家の高齢化や後継者不足で、田んぼが宅地や遊休農地に変わっていくことに、危機感を抱いていた高谷さん。田園風景を守るには、コメの消費量を増やし、農業を続けられる経営を確立しなければならないと一念発起、大阪府内の製粉会社から米粉を仕入れ、パン作りに乗り出しました。台頭するコンビニとの差別化も迫られていたため、試行錯誤を重ねた末にロールパンが完成。軌道に乗ったところで原料を自分で栽培した「ヒノヒカリ」に切り替え、米粉の配合を8割に高めて、米の風味とモチモチした食感を引き出しました。現在は食パン、菓子パンなど10種類に米粉を使い、どれも看板商品になっています。
さらに消費量を増やそうと、近隣の農家から買い取ったコメを粉にして販売。それをベースにパンケーキミックスを開発しました。2021年には製麺機を導入し、高槻産米100%の米粉麺を自ら加工して発売。グルテンフリー人気の高まりを受け、メニューに採用する市内外の飲食店が増えたり、高槻市ふるさと納税の返礼品に採用されたり、順調に売り上げを伸ばしています。最近ではショートパスタの開発や、大学・調理専門学校からの講師依頼など、高槻産米のブランド化を進める「米粉の伝道師」としてフィールドを広げています。
「高槻と言ったら、米粉をイメージしてもらえるように、これからも魅力を伝えたい」と、夢を膨らませる高谷さん。ブームに終わることなく、米粉麺のように細くても長~く愛されることを願っています。