未来の技術だった宇宙旅行に、民間人も行ける時代になりました。月に人類を送って基地を作り、滞在する計画も進み、SFの世界だけの夢物語が現実味を帯びています。月面で生活するとなると、食料の確保が不可欠ですが、地球から運ぶのは莫大なコストがかかり、量も限られてしまうので、現地で自給自足するのが理想的です。こうした中、低重力でも野菜や果物を栽培する「月面農場」をつくる研究が千葉大学宇宙園芸研究センターで始まっています。人間の呼吸から出る二酸化炭素までも作物の光合成に利用するなど、月面での暮らしを可能にするゼロエミッション計画が進んでいます。
国立大学で唯一、園芸学部を備えている千葉大学は2023年1月、「宇宙園芸研究センター」を新設しました。2030年代には100~1000人程度が月面に長期的に居住できると想定されることから、日本では宇宙航空研究開発機構(JAXA)が中心となり、「月面農場」実現しようと、無人化での栽培技術や廃棄物のリサイクルシステムなどの研究が進んでいます。地球の6分の1しか重力がなく、大気もほとんどない月面は、昼夜の温度差が200度を超え、放射線が降り注ぎます。この環境下では作物の栽培はできないので、閉鎖空間で人工光を使う植物工場での栽培が前提となります。そのため、宇宙園芸研究センターは、候補として稲、ジャガイモ、サツマイモ、大豆、トマト、キュウリ、レタス、イチゴを選定。土を使わない養液栽培で、発光ダイオード(LED)を光源に、水の使用を極力減らした栽培に挑戦。このほか、人間の排泄物を分解して、再び水や肥料にする究極の循環型栽培を目指した研究を重ねています。これまでに植物の残りかすを分解する技術を使って、そこから発生する炭酸ガス、無機元素を回収し、養液栽培で化学肥料8割減のレタス栽培を実証。廃棄されていたレタスの残りかすから、レタスを再生産するというユニークな成果を収穫しました。
宇宙園芸研究センター部門長の中野明正さんは「資源循環やゼロエミッションなど研究で得た知見は宇宙だけでなく、地球上で起きている食料問題の解決にもつながるので、重要な基盤技術となります」と力を込めます。民間による宇宙開発が勢いづく中、日本は高度な食料生産技術という独自の強みで軌道に乗ります。