ワインの生産量で日本一の山梨県。ワイナリーの数も国内トップで、「ワイン県」としての地位を確立していますが、醸造工程で出るブドウの搾りかす(ワインパミス)の処理に、ワイナリーは頭を悩ませています。搾りかすは廃棄されていますが、食品会社の経営者が「もったいない」と持ち帰ったことがきっかけで、食品や染料、家畜の飼料として有効活用する活路が切り拓かれました。環境負荷を減らして、持続可能な開発目標(SDGs)推進にも一役買う取り組みです。
山梨県都留市で業務用食材の卸売会社を経営する中村文昭さんは、取引先のワイナリーを回る中で、果皮や種などブドウの搾りかすの処理に苦慮する姿を目の当たりにしてきました。夏場に大量に出る搾りかすは、県全体で年間約1万トン。放置すると腐敗し、コバエや悪臭が発生するので、搾りかすは廃棄されていました。しかし、搾汁後のパミスが放つ芳醇な香りが、中村さんの「もったいない精神」に火をつけ、2017年、有効活用を探るプロジェクトに着手しました。
最初に考えたのは、水分を含んだままのパミスを食品として利用することです。あらゆる食品に加えてみましたが、どれも失敗。次に水分を飛ばして粉末にし、バニラアイスにかけてみました。すると、ワインの香りが絶妙にマッチ。手応えを感じた中村さんは、パミスの粉末を原材料として使う提案をいくつものメーカーに持ち掛けましたが、全く売れません。悩んだ末に、パミスの機能性に着目。神奈川県立産業技術総合研究所に成分分析を依頼した結果、抗酸化成分のポリフェノールは緑茶の6倍、ワインの2倍以上含まれ、生活習慣病や緑内障、白内障、虫歯などに予防効果があることが分かりました。優れた機能性を武器に、地元の飲食店や菓子店などにアピールすると、カレーやお菓子に使いたいと徐々に注文が増え、大手航空会社が国際線ファーストクラスの機内食にパミス入りのレーズンブレッドを採用。認知度は一気に高まりました。現在は牛、豚、鶏、羊の餌として与えることで、肉質を柔らかくしたり、糞尿の臭いを軽減したり、畜産分野でも効果が確認されています。さらに県の伝統工芸である和紙や布の染料や化粧品、ビーガンレザーなど、用途は広がっています。
中村さんを酔わせたワインパミス。今後は形を変えて、新たな資源としてサステナブルな社会を醸していきます。