高知県特産の地鶏「土佐ジロー」は、県が作出した卵肉兼用のF1種(一代交雑)です。中山間地域の農家が所得を確保しやすくするために開発された鶏で、小振りながら卵も肉も濃厚な味が売り。限られた飲食店や小売店などでしか味わえない希少価値も相まって、根強い人気を誇っています。
「地鶏」と呼ばれるのは、日本農林規格(JAS)に記載されている日本在来の血統が50%以上の鶏で、飼育条件など、厳しい基準があります。「土佐ジロー」は、高知県原産の天然記念物「土佐地鶏」のオスと、アメリカ原産の「ロードアイランドレッド」のメスを交配。高知の特産に育てるには、「土佐地鶏」の血統が欠かせないとして開発に着手しました。しかし、「土佐地鶏」のメスは産卵率が著しく低いため、血統はオスを残すことに決め、パートナー探しを始めました。さまざまな品種と掛け合わせた末に、褐色の卵を産む卵肉兼用種として産卵率も高い「ロードアイランドレッド」に白羽の矢が立ちました。交配の構想を含め、10年がかりで誕生したF1種は、お父さんの名前から「とさじ」、お母さんからは「ロー」を取って、「土佐ジロー」と命名されました。しかし、「土佐ジロー」と名乗れるのは、生産者団体「高知県土佐ジロー協会」に入会している会員で、土佐ジロー飼養マニュアル通りに生産された鶏だけ。この飼養マニュアルには、メス20羽に対して、オス1羽以上を同居させ、エサには緑餌(りょくじ)と呼ばれる草や野菜を与え、鶏舎には止まり木を設置するなど条件が細かく定められており、農家はこれに従って管理しています。
「土佐ジロー」の卵は、SS~Sサイズで、1個40グラム前後。Mサイズの60グラム前後と比べると小振りですが、卵黄は大きく、Mサイズ並みの重量があります。これが濃厚な味を引き出しているのです。また、肉は一般のブロイラーが約50日の飼育で出荷されるのに対し、土佐ジローはオスで約150日かかります。平飼いで育てた肉は脂肪分が少なめで弾力があり、噛むほどに地鶏のうま味が口の中に広がります。
高知県土佐ジロー協会の会長を務め、自身も1700羽を飼養する一圓(いちえん)信明さんは「卵も肉も自信を持ってお勧めできるので、これからは後継者も育てたい」と抱負を語ります。高齢化で飼養戸数は減っていますが、「土佐ジロー」に魅力を感じ、若い人が新規参入するなど、「金の卵」も生まれています。