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シェフが味付ける地域の未来

地元食材を活かした飲食店はたくさんありますが、栃木県宇都宮市にあるフレンチレストランのオーナーシェフ・音羽和紀さんは、料理の提供だけにとどまらず、生産者や企業などと協働し、地産地消や食文化の素晴らしさ、奥深さなどを国内外に発信しています。農業振興や食育など、40年以上にわたって地元の発展に尽くしてきた音羽さんの源流となっているのは、フレンチの巨匠から受け継いだ「テロワール(土壌や気候などの地域特性)」を重んじることです。

音羽さんは大学卒業後、ドイツやスイス、フランスのレストランで修業を重ね、フランス料理界を代表するシェフの故・アラン・シャペルさんに、日本人として初めて師事しました。「厨房のダヴィンチ」とも呼ばれた師匠から多くを学ぶ中で、最も音羽さんの心に刺さったのは、地元の食材やそれを育てる生産者がいなければ、料理人は存在しないということ。生産者を店に呼んでは、テーブルを囲んで食について話し込むシャペルさんを見て、料理には生産者はもちろん、地域のすべてが反映されていることを実感したそうです。

音羽さんは「いい食材がなければ、料理人がどんなに頑張っても限界があります。でも、いい食材でおいしい料理が作れたら、料理人を通して食材の良さを国内外に伝えることができます。このように生産者と料理人は共に生きる間柄なのです」と力を込めます。そのため、音羽さんはSDGsを意識しながら、これまでに数百カ所におよぶ生産現場や市場を訪ね、魅力的な食材の掘り起こしや開発などを、生産者や企業と協働で進めてきました。林業が盛んな栃木県では間伐材が大量に発生することから、間伐材を燃やした熱で建材工場の木材を乾燥させ、その余剰熱を利用したウナギの養殖やマンゴーの温室栽培をするプロジェクトに参加。生産を軌道に乗せるなど、地元の農業に付加価値を与える取り組みに一役買っています。

また、子どもの孤食の増加を憂い、約40年前から地元の小学校で料理教室を開いたり、店に児童を招いてテーブルマナーを教えたり、食育活動も実践しています。

「地域の食が豊かであれば、そこに人が集まり、地域が元気になります。食に関わる人たちとのネットワークを広げ、地域全体で底上げしていくことが必要です。それが観光の誘客や、地域に人を呼び込むことにつながります」と音羽さん。食材に恵まれた栃木の価値をさらに高めるため、これからも腕を振るい続けます。

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