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天と地のデータを駆使したコメ作り

地球温暖化に起因する猛暑によって、さまざまな農作物に高温障害が発生しています。日本の主食・コメにも被害が出ており、色や形などの見た目で最も評価の高い「1等米」比率が、2023年産米は過去最低となるなど、事態は深刻です。産地が暑さに強い品種の導入や適切な栽培管理などに注力する一方で、人工衛星が観測したビッグデータを活かし、気候変動に対応できるコメ作りへの挑戦が始まっています。

取り組んでいるのは、宇宙航空研究開発機構 (JAXA)認定のベンチャー企業「天地人」(東京)と、米卸大手「神明」(東京)、農業IT企業の「笑農和(えのわ)」(富山)の3社です。天地人は地球観測衛星のデータを基に、土地の解析や可視化する自社の土地評価サービス「天地人コンパス」を利用。日射量、降水量などのデータや、地質などの地表データを組み合わせて、稲作の条件に合った土地を割り出します。神明はこの栽培適地に、自社で育種した早生で多収のオリジナル品種「ふじゆたか」を作付け、栽培管理を担います。そして笑農和は、自社のIoT(あらゆるものがネットにつながる)システムを活用し、田んぼの水の温度や量を自動的に調整し、気温の変化に合わせて水を管理。「適地選び」「品種と栽培技術」「適正な水管理」といった、3社のリソースを最大限に活かしたコメ作りが始まりました。

2022年には、天地人が選び出した山形県鶴岡市の田んぼに、神明が地元農家の協力を得て、「ふじゆたか」を作付けました。笑農和は高温が続くと水の量を増やして、水温が適正に保てるように自動制御で管理。その結果、猛暑にもかかわらず1年目から1等米を収穫。翌23年度も猛暑でしたが、同じ場所で、2年続けて1等米を収穫しました。採れたコメは、宇宙ビッグデータ米「宇宙(そら)と美水(みず)」と名付けて東京と大阪で販売。瞬く間に完売し、関係者は手応えを感じています。今後は、さらに糖度の高いコメ作りにも挑戦する考えです。

農家の高齢化や担い手不足、生産コストの増大など、農業を取り巻く環境は厳しさを増していますが、天地人の岡田和樹さんは「生産者の努力だけでは難しい問題も、衛星と地上のデータを組み合わせれば解決できるかもしれません。農業が直面する課題を宇宙の視点でサポートしたい」と力を込めます。ビッグデータの活用はコメだけにとどまらず、その土地に適した農作物や品種を選び、病害虫などのリスクも減らせるとして、大きな期待が集まっています。

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