さわやかな香りと酸味で、料理の名脇役として親しまれているユズ。食用はもちろん、化粧品の原料に使われ、海外でも「Yuzu」で通じるほど、存在感を強めています。ユズの栽培で60年以上の歴史を誇る、徳島県那賀町木頭地区では、農業法人が栽培から加工品までを手掛け、海外からも高い評価を得るなど、人気はうなぎ上り。過疎化に悩む地域において、高齢者の生きがいづくりや若者の定住など、地方創生の新たな形を目指しています
那賀町木頭地区は徳島県南部に位置し、標高1000メートルを超える山々に囲まれた集落。寒暖の差が激しく、降水量も多いことからユズの栽培に適していました。しかし、「桃栗三年柿八年、柚子(ゆず)の大馬鹿十八年」とのことわざがあるように、ユズは収穫できるまでに時間がかかる作物だったため、産地化への道を阻む要因となっていました。ところが同じ柑橘のカラタチに、ユズをつなげる「接ぎ木」の技術が開発されたことで、栽培期間が5年に短縮。産地化への大きな足掛かりとなりました。
恵まれた気象条件と栽培技術の進歩によって「木頭ゆず」は、ブランドとして急成長。2017年には、地域の農林水産物や食品をブランドとして国が保護する「地理的表示保護制度(GI)」に那賀町で栽培される「木頭ゆず」が、徳島県の産品として初めて登録されました。
こうした流れの中、2013年に農業法人「黄金の村」が産声を上げました。「木頭ゆず」の生産、販売のほか、果汁や果皮を原料とした食品や化粧品などの製造・販売に乗り出したのです。果汁は収穫後、24時間以内に搾汁するなど、品質にはとことんこだわりました。質の高さを武器に、2015年12月からはフランスなどEU諸国やイギリスに冷凍果汁を本格輸出。現在はタイやシンガポール、アメリカなど9カ国に輸出しています。2021年には国が認定する「輸出産地リスト」にも掲載。初年度は1000万円だった売り上げも、2022年は3億円を超え、急成長を遂げています。国内外からの高い評価は、高齢者のやりがいを喚起するだけでなく、ここ数年は若者が移住したり、Uターン組が増えたりして、地域に新しい風を吹き込んでいます。
黄金の村は、「全ての人が笑顔になれる、奇跡の村」の創造をミッションに掲げています。「木頭ゆずの価値をもっと海外に発信して、世界中の方々に喜んでいただきたい」と取締役の神代晃滋さん。「大馬鹿」ならぬ「大化け」するユズの未来に期待しています。