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アイス好きが高じて、ご当地ナイス!

高齢化や過疎化などの課題を抱える熊本県山鹿市で、地元の農産物を使ったアイスの製造・販売を手掛けて、里山の再生を目指す人がいます。(株)パストラル社長の市原幸夫さんです。パストラルのアイスは、原料の約6割が熊本県産。地域の農家と連携し、無農薬の合鴨米を生産する組織を立ち上げるなど、中山間地域における農業の基盤づくりに注力しています。

市原さんはかつて、プランナーとして観光物産館の立ち上げに携わっていました。どの物産館でも、農産加工品は人気商品。しかし、売り上げが伸びるにつれて、高齢者中心の加工グループが疲弊し、出荷を断念する現実にぶつかりました。危機感を抱いた市原さんは、規格外農産物を使った新しいビジネスモデルを作ろうと、1997年にパストラルを設立。6次産業化に乗り出しました。

最初に目を付けたのは、市原さんの好物・アイスです。大阪の百貨店にあるジェラートショップで、製造・販売のノウハウを学んだ後、熊本県産のジャージー牛の生乳と地元のかんきつや栗などを使い、「ご当地アイス」を商品化。小ロット多品目を売りに、販売を始めました。味には自信がありましたが、高価格帯のアイスはなかなか売れません。展示会への出展や、東京、大阪、福岡などの飲食店にローラー作戦を展開するなど、地道な営業活動を続けた結果、少しずつ「オリジナルアイスを作ってほしい」と注文が入るようになりました。ターゲットを業務用の小ロットオーダーメイドに絞り込み、赤字体質からの脱却に成功しました。

市原さんが築いた基盤を、さらに広げるアシストをしたのは、3人の息子夫婦です。長男夫婦は年間300種以上を扱うアイス製造部門、次男夫婦は合鴨米と合鴨肉、栗、ワイン用ブドウ、渋柿などを生産する農業部門、パティシエの三男は夫婦でフランス菓子専門店を運営する菓子部門を担当しています。耕作放棄地だった栗林を借りて農事組合法人を設立、収穫した栗を加工品の原料にするなど、地域を挙げた6次産業化を実現しているのです。また、収穫期には、県内外から多くのボランティアが訪れ、関係人口を拡大しています。

現在は、放置林解消のため、林業家と製材所、設計事務所と連携し、耐震性に優れた住宅を建設するプロジェクトに着手。パストラルの「3本の矢」は、強度を高めながら、里山農業の新たなビジネスモデルを射抜いていきます。

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