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目指すは里山の「農ベル賞」?

長野県南部に位置し、南アルプスと中央アルプスに囲まれた伊那市。ここを拠点に農薬も化学肥料も使わずに、コメを栽培しているのが、株式会社Wakka Agri(ワッカアグリ)です。限界集落とも呼ばれた山あいの地区で、耕作放棄地を水田によみがえらせ、収穫したコメは玄米食専用として、あるいは餅、甘酒などに加工して輸出しています。さらに、集落にあった築130年の古民家を改修し、農業体験や民泊を受け入れるなど、地域のシンボルとなる拠点を構えました。耕作放棄地の再生によって、深刻だった鳥獣被害も軽減。過疎に悩む集落に新しい風を吹き込んでいます。

Wakka Agriは、輸出米事業を展開していたWakkaグループの代表が「日本が誇るコメを栽培から手掛けたい」との一念で、2017年に設立しました。代表の大学時代のネットワークを通じ、豊かな水源に恵まれた伊那市長谷地区を紹介され、耕作放棄地だった棚田の再生から着手しました。1年目は40アールを再生し、米500キロを収穫。その後も徐々に面積を広げ、これまでに8.7ヘクタールを水田に戻しました。

野生動物のすみかとなる耕作放棄地が減ったことで、地域住民を悩ませていた鹿やイノシシなどの鳥獣被害も減少。Wakka Agriによる自然栽培のコメ作りがきっかけで、集落がかつての美しい里山に生まれ変わる姿を間近に見てきた地域住民からは「ノーベル賞が取れる!」と称えられるようになりました。

収穫したコメは玄米で輸出。現地で精米し、販売することにこだわっています。現在は香港、シンガポール、台湾、ハワイ、ベトナム、ニューヨークなど販路を拡大。各拠点に「お米ソムリエ」を配置し、コメのおいしさを直接伝えることで、健康志向が高い消費者の心をつかんでいます。

2021年には長谷地区にあった2階建ての古民家を改修。梁や柱などは当時のままに、耐震補強を施し、民泊できる設備を整えました。稲の収穫体験や野生鳥獣を捕獲して、肉を食べるジビエ体験などのイベントも用意。里山の魅力を発信する拠点として、地域の期待も背負っています。

「集落維持のために、これからはシェフなどのプロフェッショナルを呼び込み、地域の人だけでなく世界中のお客さんを幸せにしたい」と語るWakka Agri社長の細谷啓太さん。里山の古民家を拠点に国内外にファンを広げる挑戦を続けていきます。

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