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五感で学ぶ「可農性」

福島県喜多方市にある公立小学校の時間割には、見慣れない授業名があります。その名も「農業科」。3年生から6年生が農業を学ぶ時間で、地元の農家の協力を得ながら、田んぼや畑での農作業や、収穫物の販売・加工など、体験型のカリキュラムが組まれています。青空の下で五感を働かせる授業は、心身共に子どもたちの健やかな成長を促しています。

喜多方市は2006年、国から構造改革特別区域の認定を受け、小学校の教科としては全国初となる「喜多方市小学校農業科」を設置しました。蔵などの文化財やラーメンなどで知られる喜多方市ですが、基幹産業は稲作を中心とした農業。地元の農業を教材に、子どもたちの「豊かな心」「社会性」「主体性」を育てようと、2007年4月から市内の3校で授業が始まりました。

農業科の授業は、各学年とも年間35時限。3年生は作物の世話を継続することの大切さ、4年生は土づくりや苗づくり、除草などの重要性、5年生は食と健康との関わりや食を守る農業の価値、6年生では自然界に存在する生命や自然と人間の共生について学びます。田植え、稲刈りなどのイベント的な体験だと「いいとこ取り」に留まってしまうことから、生産者の苦労やたくさんの生命との関わりなどを理解できるよう、地域の農家が「支援員」として授業のサポートをしています。

現在は、特区の全国展開や学習指導要領の改訂などにより、教科としての農業科は廃止となりましたが、「総合的な学習の時間」での授業が可能になったため、「喜多方市農学校農業科」という名称とカリキュラムは継続。2023年度は市内17の全小学校と中学校2校で取り組み、これまでに2万人を超える児童・生徒が学習しました。

喜多方市教育委員会が毎年開く農業科の作文コンクールの文集には「苦労したからこそでき上がった物は、特別においしいものだと分かった」「汗と苦労がたくさんつまった田んぼは、毎年お米を実らせながら、私達に大切な命をつないできたのだと感じます」など、体験から得たプロ顔負けの感想が綴られています。教育委員会の中野富全さんは「農業科の教育的成果は、点数で表せません。でも、作文には子どもたちの苦労や喜びが読み取れ、大きな成長を感じます」と手応えを語ります。喜多方市の取り組みは、農業にはAIに負けない教育的な可農性があることを証明しているのです。

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