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鎌倉発に、とこ豚(とん)こだわる

神奈川県鎌倉市の海岸に打ち上げられた海藻を餌にした豚が、地元のブランド豚として広がりを見せています。海藻を回収して飼料に加工するのは、地域の障がい者や老人ホームのお年寄りたち。この飼料を配合して育てた豚の肉を「鎌倉海藻ポーク」として販売しています。軟らかくてうま味が強い肉は、2023年度から市内にある全小中学校の学校給食に採用されています。地域資源の有効活用に加え、障がい者や高齢者、充電期間を必要とする人の社会参画にもつながるなど、「鎌倉海藻ポーク」は課題解決の救世主になりました。

「鎌倉海藻ポーク」が生まれたのは、市内在住の料理家・矢野ふき子さんが「捨てられる海藻を無駄にしない方法はないか」と考えたのがきっかけです。餌の種類によって肉の味が変わることを知っていた矢野さんは、海藻の飼料化を思いつきました。自ら海岸で海藻を集め、砂や塩分を水で洗い流して干した後、オーブンで焼いて、粉砕。試作品を持参して、神奈川県畜産技術センターに相談したところ、厚木市で養豚業を営む臼井欽一さんを紹介されました。臼井さんは配合飼料を独自に作っており、海藻も検討材料だったことから、矢野さんのアイディアに賛同。2019年から試験的な飼育を始めました。配合率や飼育期間を変えながら肉質を分析し、食味は関係者の試食会や市内の大型商業施設で試食アンケートを実施。結果を基に飼育方法を確立させました。しかし、海岸に漂着した海藻には、廃棄されるものでも漁業権が存在し、採取には許可が必要となります。そのため矢野さんは、海藻の回収・加工作業を、地域の福祉施設に入所・通所する障がい者の就労支援とすることを計画し、鎌倉漁業協同組合に交渉。漁協から許可証が発行され、取り組みが一気に加速したのです。

回収した海藻の加工作業は、市内の福祉事業所や老人ホームで行います。できた飼料を臼井農産鎌倉事業所が買い取り、計画的に豚に給餌。毎月2回、合わせて10頭分の肉が「鎌倉海藻ポーク」として出荷されます。一般的な豚肉に比べて脂肪分が約半分で、うま味の決め手となるオレイン酸が多いのが特徴。地元のホテル内にあるカフェや福祉事務所のほか、個人会員向けにも販売され、好評です。

水産資源の有効活用はもちろん、障がい者や高齢者の雇用と所得を生む「鎌倉海藻ポーク」は、食べた人も笑顔にしてくれます。矢野さんは「たくさんの市民が参加するこの取り組みを、鎌倉の食文化として発信し続けたい」と意気込んでいます。

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