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シードルに加工すれば廃棄ナシ!

各地で地場産フルーツを原料にした醸造酒が誕生する中、群馬県高崎市では2022年から、和梨を使ったシードルが製造・販売されています。シードルは、高崎市里見地区の梨農家が研究会を立ち上げ、県内のワイナリーとの共同開発で完成しました。メンバーの直売所でも販売しようと、全員が酒類の販売に必要な免許を取得。生果として出荷できない梨を有効活用できるうえ、地元のPRにもなると地域からの期待も高まっています。

シードルの製造・販売を手掛けるのは、「里見梨シードル研究会」と「奥利根ワイン」(群馬県昭和村)です。研究会代表の高瀬好男さんと奥利根ワイン社長の金井圭太さんは、かつて群馬県立農林大学校で師弟関係にありました。梨の生産者でもある高瀬さんの6次産業化を目指す構想と、地元の梨を使った商品開発を考えていた金井さんの思いが合致。農林大学校の卒業生でもある4軒の梨農家と研究会を設立し、2019年から開発に乗り出しました。

1年目は未熟果を使って酸味を生かす試みをしましたが、酸の香りが強すぎて満足のいく仕上がりにはなりませんでした。2年目以降は完熟果で試作したり、複数の品種をブレンドしたりして、試行錯誤を重ねました。その結果、甘みが強い「幸水」をベースに、芳醇な香りを放つ「王秋」をブレンドし、味と香りの両方を兼ね備えたシードルが完成。2022年8月にメンバー4人がそれぞれ経営する直売所と奥利根ワインの売店で数量限定販売をしたところ、瞬く間に完売となりました。2023年には「豊水」「あきづき」「南水」「二十世紀」などを加え、5品種以上の完熟果をブレンドして仕上げたシードルとワインを販売。ブレンド数を増やすことで、さらに深みのある味が醸し出されました。

梨の栽培で約150年の歴史を持つ里見地区は、県内でもトップクラスの生産量を誇ります。しかし、高齢化や後継者不足で農家の数は減少。さらに、ここ数年は猛暑や雹(ひょう)による被害が重なり、農家は不安定な経営を強いられています。丹精込めて栽培しても、形がいびつだったり、傷がついたりした梨は、廃棄されたり、安く販売されたりします。そのため、農家の手取りを下げてしまいますが、金井さんは「加工に回して自分で販売すれば、収入につながります。見た目が違うだけで、味は変わりません」と、太鼓判を押します。

このような作物をワイナリーが原料として買い上げ、加工して付加価値を高めたのち、製品を生産者が自ら販売し、収入を確保する。里見梨と産地を守る持続的な取り組みとして注目されています。

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