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“経木”とジビエで森を守るシカない!

野生動物による農作物被害が深刻です。鳥獣の生息地・隠れ家となりやすい手入れされなくなった里山林の増加やハンターの減少などが要因です。市町村における2022年度の被害額は156億円。森林の被害は5000ヘクタールにおよび、東京ドーム約1000個分に相当します。主犯格はシカ。植林した木の枝葉や樹皮を食べるので、林業への影響はもちろん、低木や下草などが消失することで土壌流出や土砂崩れの危険性が高まるなど、事態は深刻です。

こうした中、長野県・上伊那農業高校コニュニティデザイン科里山コース3年の下嶋秀朋(まさと)さんは、食品の味と鮮度が保てる包装資材としても使われる木材を薄く削った経木(きょうぎ)を授業で渡されたことをきっかけに、魅力的な経木製品を作れば、林業の価値を高め、担い手不足を解消できるのではないかと林業が直面する問題を解決する秘策を思いつきました。そこで、高校生を対象にしたプレゼンテーションの全国大会「CHANGE MAKER U-18」へのエントリーを決意し、110キロも離れた場所にある屋代南高校ライフデザイン科フードデザインコース3年(当時)の石田杏海(あみ)さんと後藤亜利沙さんに相談を持ち掛けました。2人は「全日本高校生WASHOKUグランプリ2022」に出場し、シカ肉料理で審査員特別賞を受賞しており、コラボできたなら、全国大会進出も夢ではないと考えたのです。こうして、チーム「ショコラうさぎの三つ子」が結成され、「森との共生」をテーマにプロジェクトが始まりました。

ジビエの食文化が受け継がれる長野でも、捕獲された鳥獣は食用やドッグフードとしての利用もありますが、多くが廃棄されています。そのため、石田さんと後藤さんは、シカ肉をミンチにして簡単にハンバーグが作れるミールキットを考案。シカ肉はハンターが捕獲し、上伊那農高で解体したものを用い、食材はエノキダケやエダマメ、ワサビ、米粉など長野産にこだわりました。一方、下嶋さんはシカの形に切り抜いた「デザイン経木」を作り、食べる時にハンバーグの下に敷く使い方を提案することでミールキットと合体。3人は得意分野を活かしたアイディアを引っ提げて全国大会に出場し、見事優勝を果たしました。

木が3本集まってできる「森」の字のごとく、3人は森から始まる日本の食と農、地域の未来を提案、持続可能な社会の実現を目指します。

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