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海の厄介者、もぉ~っと活用

新型コロナ禍による輸送費の上昇、円安やロシアのウクライナ侵略、などのあおりを受けて飼料価格が高騰しています。かさむ飼料代を何とかしようと、酪農王国・北海道では、処理に困っていた雑海藻を牛の餌に活用する取り組みが始まっています。

道内でも有数の酪農地帯にある標茶町とコンブ漁が盛んな釧路町は、互いの特産品を活かした商品開発などのブランド化や、海藻を牛の飼料にした場合の環境への影響などを研究するため、2021年に協定を結びました。海藻を餌にすると、牛のげっぷ(メタンガス)が抑制されたとの研究成果が海外で報告されたことから、初年度は釧路町のコンブを粉砕して、標茶町で肥育している牛に与える研究に着手。2年目は、地域にある未利用資源の飼料化に取り組んでいた道立標茶高校の畜産ゼミ飼料開発班に声を掛け、雑海藻「ホンダワラ」を餌にするプロジェクトを始めました。

ホンダワラはニシンやハタハタなどの産卵場になるなど重要な役割を果たす一方で、繁茂し過ぎるとコンブの生育を妨げたり、スクリューに絡まって船が故障したり、漁師を困らせる厄介者でもあります。そのため、漁師たちは毎年5月にホンダワラを駆除していました。釧路町は駆除したホンダワラ3トンをプロジェクト用として地域の肥育農家と標茶高校に提供。生徒たちは校内で乾燥、粉砕したホンダワラを混合飼料に混ぜて1日2回、2カ月にわたって乳牛に与え、ホンダワラを与えていなかった時期の乳質と比較しました。標茶町の肥育農家では、粉砕ホンダワラを混ぜた濃厚飼料を6カ月間、肥育牛に給与するなど、同様の研究を実施。データを酪農学園大学(北海道江別市)が検証したところ、コンブもホンダワラもげっぷの量や乳量、乳質に変化はありませんでしたが、肝臓に膿がたまる肝膿瘍という病気の発生率を低下させることが分かりました。肝膿瘍は濃厚飼料の食べ過ぎが原因とされ、発症すると肉質を悪くすると言われています。海藻に含まれる何らかの成分が発症を抑えたと考えられることから、今後は生産コスト削減だけでなく、病気予防の観点からも雑海藻の利用に期待が高まっています。

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