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宇宙へ続くサバ缶道

「普通、缶は開ける時にプシュッと汁が出てきちゃうんですけど、これは大変優秀で、あんまり出てきません。ちゃんとお魚にはジューシーな醤油の感じがしっかり染みている感じです。大変おいしいです!」

国際宇宙ステーション(ISS)に滞在していた宇宙飛行士の野口聡一さんが2020年11月27日、YouTubeを通して発信したサバ缶の食リポです。紹介されたのは、福井県立若狭高校が開発した「サバ醤油味付け缶詰」。地元の特産・サバを使って宇宙食を作る大きな目標は先輩から後輩へと受け継がれ、14年がかりで実現しました。

宇宙食に採用されたきっかけは、若狭高校に統合前の小浜水産高校実習工場で作っていたサバ缶の製造工程に2006年、食品衛生管理の国際基準「HACCP(ハサップ)」を導入したことです。ハサップはもともとアメリカ航空宇宙局(NASA)が安全な宇宙食を開発するために定めた衛生管理の方式。NASAが考案したものだと知った生徒の一人が、サバ缶を宇宙食にすることを発案、研究が始まりました。それから7年後、小浜水産高校は、先進的な理数系教育を実施する「スーパーサイエンスハイスクール」の指定校だった若狭高校と統合。これによって地元の大学との連携が強まり、研究に弾みがつきました。

しかし、宇宙食に認証されるには宇宙航空研究開発機構(JAXA)の基準を満たさなければなりません。JAXAにアドバイスをもらおうと、電話で直談判。「教育の一環として取り組みましょう」との回答を引き出しました。JAXAの協力を得ながら改良を重ねるものの、無重力でも飛び散らない調味液の開発に時間を要しました。無重力では味覚が鈍るため、味を濃くするなどおいしさも追求。試作を重ねた末、調味液に国産くず粉でとろみをつけ、飛散防止に成功しました。そして2018年11月、高校生として初めて宇宙日本食の認証を受けました。開発に携わった生徒は300人を超えたそうです。指導教諭の小坂康之さんは「たくさんの生徒たちがそれぞれの得意分野を活かし、諦めずに継続してきたことが、大きな結果につながりました」と振り返ります。

戦国時代から江戸時代にかけて、若狭のサバを京都に届けた道を「鯖(さば)街道」と呼んでいました。300人分の思いが詰まった缶詰は、ISSまでの新たな「サバ缶道」という軌道に乗り、後輩を励まし続けます。

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