ニッポン全国フードシフト中

羊毛で野菜がうメェ~

地球温暖化が深刻さを増しています。気候変動は農業に重大な影響を与えるので、生産現場では自然環境に優しい農業への転換が進んでいます。こうした傾向は教育現場も一緒で、三重県立四日市農芸高校農業科学科 食料生産コースもその一つ。ユニークなのは、地元にある紳士服メーカーの工場から出る廃材の羊毛を野菜の肥料に活用する研究で、成果を確認していることです。

羊毛を提供しているのは、名古屋市に本社がある「御幸毛織」の四日市工場。服地を製造するために羊毛で糸を作りますが、繊維が短すぎたり、絡まったりして糸にできなかったものの処理に悩んでいました。SDGsの観点からも活用方法を模索していたところ、羊毛には窒素やリン酸、カリウムなど、農作物の肥料となる成分が多く含まれており、中でも窒素成分が多いことに着目しました。工場内にある花壇で、羊毛を混ぜた土と混ぜなかった土にピーマンやトマトなど夏野菜を植えて比較しました。その結果、羊毛入りの土で育てた野菜は生育が良く、手応えを実感。四日市農芸高校に相談し、2021年9月から共同研究が始まりました。

生徒たちは農場に羊毛「あり」と「なし」の畝を作り、そこにダイコン、ハクサイ、ブロッコリーを植えました。ハクサイは栽培に失敗しましたが、ダイコンとブロッコリーは「あり」の生育が早かった分、収穫期も早まりました。大きさ、色はもちろん、生徒と社員による試食評価の結果など全ての項目で「あり」に軍配が上がりました。翌年はトマト、ピーマン、ナス、オクラなど夏野菜で挑戦。秋野菜ほどではないものの、違いは明らかでした。指導教諭の上田圭祐さんは羊毛について「窒素が生育に影響したと思われる。土にすき込んでからの分解も早い」と可能性を感じています。

四日市工場は、市の特産「伊勢茶」の栽培にも羊毛を提供し、現在、試験栽培が行われています。工場長の中川雅規さんは「高騰する肥料の代替として活用する新しい挑戦。SDGsだけでなく、市の産業全体を盛り上げるきっかけになれば」と期待を寄せます。
羊毛と農業。2本の糸は環境の変化に適応しながら、「SDGs」という大きな布を織り成していくことでしょう。

事例一覧ページへ戻る