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“スミ”におけない焼き鳥

日本のソウルフード、焼き鳥。味付けがシンプルなだけに、飲食店では鶏肉の品質や肉を焼く炭へのこだわりで他店との差別化を図っています。こうした中、養鶏業が盛んな山口県長門市では市内の焼き鳥店と森林所有者が連携し、地元の山林から伐採した木で作った炭で調理した焼き鳥を武器に、地域おこしが始まっています。食材と燃料の全てを地場産で賄い、肉を焼いた後に発生した灰を山に戻して土壌改良剤として活用するというサステナブルな取り組みです。

長門市は養鶏農家が多く、新鮮な鶏肉が手に入りやすいことから、焼き鳥店がたくさんあります。「焼き鳥の町」として知名度を高めようと関係者が知恵を出し合っていたところ、市内の焼き鳥店で組織する「長門やきとり横丁連絡協議会」の会長・青村雅子さんは、炭も地場産で調達することを思いつきました。青村さんの店では国産の炭が入手困難な時に外国産を試用しましたが、品質のいいものが安定的に手に入らず、炭探しで苦労していました。

長門市は森林資源に恵まれ、たきぎや炭、シイタケの原木生産など林業が栄えていたことに目を付けた青村さんは行政機関に相談。下関農林事務所が間を取り持ち、市内の三隅地区の森林所有者で構成する「三隅林業研究グループ」を紹介しました。木材価格の低迷や後継者不足、さらにはニホンジカによる食害などで荒廃する山林に頭を抱えていた研究グループは、「山がきれいになるのなら」と相談を快諾し、マッチングが成立。2020年に森林所有者と焼き鳥店関係者の協働プロジェクトが始動しました。

関係者で木を切り出して炭焼きに挑戦しましたが、10年以上未使用の窯は老朽化が激しく、失敗の連続。炭だけでなく手も焼いたそうです。炭焼き名人に教えを乞うなどして、何とか炭が完成、「みすみすみ」と名付けました。SDGsをテーマにした親子イベントで炭をお披露目し、焼き鳥作りを体験してもらったところ、大盛況。林業や地産地消への理解も深まり、関係者は手ごたえを感じました。「おいしいと喜んでくれたお客さんに『地元の炭を使っています』と胸を張れることが何よりうれしい」と自信を深める青村さん。研究グループ会長の山本英雄さんも「山林が見違えるようにきれいになった。これからも山の資源を有効活用する活動を続けたい」と意欲を燃やします。

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