ニッポン全国フードシフト中

食品ロス解消に、どんぐりの穴?

食べ残しや売れ残り、賞味期限が迫っているなどの理由で、まだ食べられるのに捨てられてしまう食品ロスが、国際的な問題になっています。日本の食品ロスは年間522万トン(2020年度:農林水産省、環境省)と推計され、1人が毎日、おにぎり1個(113グラム)を捨てている計算になります。

こうした現状を憂いた自動車メーカーなどに勤務する20代のエンジニア4人は、食品ロスを減らそうと2020年、愛知県日進市を拠点に合同会社を立ち上げました。縄文時代、どんぐりピットと呼ばれる穴に木の実を貯蔵し、集落のみんなで大切に分け合って食べていたことに共鳴し、社名に「どんぐりピット」を採用。食品ロス削減に向けてアクセルを踏み込みました。

開発したのは、現代版どんぐりピットとも言える「シェア冷蔵庫」です。カメラや鍵、タブレットを付けた業務用のディスプレイ冷蔵庫に、生産者が規格外やたくさん取れた野菜を入れて、専用のアプリで金額、数量を登録して販売するシステム。事前に会員登録をして発行されたQRコードをスマホでかざすと、決済が終了してドアが開く仕組みになっています。在庫がなくなると生産者にメールが自動送信されるので、補充のタイミングが把握できます。アプリによるクレジット決済なので、現金のやり取りは一切なし。わずかな空き時間に新鮮野菜が買えるうえに、タブレットには生産者のお勧めレシピも紹介されるとあって消費者に大人気。愛知県内の住宅地や名古屋市内のシェアオフィスなどに設置していますが、会員は延べ3000人を超え、設置場所も県外に広がっています。

会社設立と同時に畑を借りて野菜作りに挑戦したどんぐりピットCEOの鶴田彩乃さんは、慣れない農作業に悪戦苦闘し、生産者が苦労して育てた野菜を「無駄にしてはいけない」との思いを強くしたそうです。鶴田さんは「シェア冷蔵庫を全国に広げ、食品ロスを減らすだけでなく地域の食の魅力も発信したい」と考えています。

近隣の人々と食べ物を分け合い、無駄にしない工夫と行動。時は変われど、縄文人の思いは「穴」から「冷蔵庫」へと形を変えて、現代に受け継がれています。

事例一覧ページへ戻る