ニッポン全国フードシフト中

産学連携でエコビール

小規模の醸造所が仕込むクラフトビールが、全国各地で産声を上げています。市場はまさに群雄割拠。どの醸造所も地場産の農産物や自慢の水などを使って、違いを打ち出しています。石川県金沢市にある「金澤ブルワリー」もその一つですが、原料だけでなく環境にも配慮したビールづくりを追求しています。

金澤ブルワリーは2015年、市内初のクラフトビールの醸造所として誕生しました。目指すのは、伝統と新しさが織りなす金沢で愛される質の高いビール。醸造所としては小規模ですが、これまでに県内産の最高級ブドウ「ルビーロマン」や在来種の渋柿「紋平柿」、ユズ、トマト、そばの実などを使い、全国でも珍しい自家培養の生酵母で醸造してきました。こうしたこだわりの背景には、社長の鈴森由佳さんが留学先のカナダで出会った、クラフトビールの存在があります。その土地でしか出せない地域と生活に密着したビールから受けた衝撃が、鈴森さんの中で発酵を続け、帰国後の原動力になりました。

2021年からは、石川県立大学生物資源工学研究所とのコラボで、大学の農場で栽培したフレッシュホップを使ったビールの販売を始めました。ホップは、県立大学が雑草や捨てられる野菜くずを発酵させてメタンガス(≒都市ガス)と電気を発生させたあと、余った発酵液を肥料にして育てたもの。講師の馬場保徳さんが東日本大震災で被災した際、電気やガスが途絶えて困った経験から、研究が始まりました。しかし、メタンガスを安定的に生産するには、発酵装置に雑草を投入する作業が必要で、馬場さんはその人件費を捻出する方法を考えました。その結果、ビール好きの馬場さんはホップを栽培してビールをつくって売ることを発案。金澤ブルワリーとのコラボが実現したのです。完成したビールは「BOSAI BEER(防災ビール)」と名付けて販売。「苦みが少なく飲みやすい」と好評です。さらに金澤ブルワリーはSDGsの取り組みも進めようと、醸造過程で出る搾りかす全量を近隣の農家に提供。野菜や花の肥料や牛のえさとして再利用されています。

こうした地域の恵みを余すことなく活用する取り組みは、クラフトビールと同じように、循環型社会を目指す機運を醸しているのです。

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