年配者の趣味というイメージが強い盆栽ですが、近年は海外の愛好家から「BONSAI」として熱い視線が注がれています。こうした中、愛媛県東部にある東赤石山を中心とする赤石山系に自生し、県の天然記念物に指定されている「赤石五葉松」(和名・ヒメコマツ)を盆栽にして、EUに輸出する取り組みが勢いを増しています。
赤石五葉松はその名の通り、短い葉を5本携えているのが特徴で、鮮やかな葉色、樹形の美しさなどから「盆栽の女王」として高い人気を誇っています。四国中央市を中心に江戸時代から盛んに生産されていましたが、住居の洋風化によって盆栽を飾る和室が少なくなったり、愛好家が減ったりして国内需要が低迷。生産者の高齢化や後継者不足も相まって、産地には危機感が広がりました。
そこで目を向けたのが海外です。BONSAIブームで熱を帯びる国に販路を拡大しようと、生産者が中心となって合同会社を立ち上げ、五葉松の人気が高いEUに狙いを定めました。EUへ輸出するには地面から50センチ以上離して約2年栽培しなければならないなど厳しい基準があり、これをクリアするため管理体制を整備。その結果、2017年に初めてドイツとフランスへ約200鉢を輸出しました。さらに本格的な輸出を目指し、19年には「赤石五葉松輸出振興組合」を設立し、ローマ教皇に盆栽を献上。そのニュースが世界に発信されると、認知度は一気に高まりました。現在、輸出先はドイツ、フランス、スペイン、オーストリア、オランダの5カ国に広がり、17年度は337万円だった輸出額も、5年間で総額3,000万円を超えました。愛媛県や農林水産、商工、消費者など関連団体で構成する「えひめ愛フード推進機構」も支援に乗り出すなど、県を挙げて赤石五葉松の行く末を見守っています。
松だからといって待つのではなく、攻めへと大きく舵を切った産地の挑戦。盆栽の販売だけにとどまらずメンテナンス対応もするなど、世界中の愛好家を楽しませる環境づくりを目指します。