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現場から学ぶ命の尊厳

山形県の蔵王マウンテンファームは運営する牧場を子どもたちをはじめ幅広い世代に開放し、食の循環を学習する独自の食育活動を進めています。動物がどのように処分されて食卓に上り、人間の生きる力に寄与しているのか。学校では体験できない食の生産現場に触れてもらおうと約30年前から取り組みが始まりました。

参加者はまず出前講座でいのちと食のつながりを学びます。例えば肉牛の寿命は約15年ですが、2年足らずで解体され牛肉という食べ物に。フライドチキンに使われる鶏は生後40日で処分場に運ばれます。短期間で出荷されるのは柔らかくおいしい肉を食べたいという人間の欲望に応えるため。そんな現実もしっかりと子どもたちに伝え、「食べ物に文句を言ってよいのですか」と問いかけます。

いよいよ牧場体験が始まると、子どもたちの表情は一変します。初めて見る牛の大きさや息遣いに圧倒されながら乳搾りやバターづくりに挑戦。自分の手で牛の感触や温かさを確かめ、お腹をすかせた子牛が勢いよくミルクを飲む姿から生きる力を体感します。

人間が生きるために提供される動物の命。そのことを知ると子どもたちは心を揺さぶられながらも、見違えるように成長します。

参加者からは思いを綴った文章や絵が多く寄せられ、小学生の女の子は「いのちはこころ。きゅうしょくはのこさない」と詩に書きました。若い教員やPTAの保護者も参加し、牧場での学びを学校や家庭、地域に持ち帰っているそうです。

自然のありのままの営みを知り、命の尊厳を現場から学ぶ。こころに刻まれる食育モデルがここにあります。

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