私たちを取り巻く食と農についてあらためて考えさせてくれる記録映像は多々あるが、自分が最も衝撃を受けた作品は、ずばりロバート・フラハティの『アラン』。アイルランド沖の絶海の孤島で人々はどう生きているか。土がないので長い時間をかけて海藻から畑をつくったり、断崖から糸を下ろして巨大魚を釣り上げたり、人間ってこんなにすごかったっけ…!? と脱帽しつづけるほかない、センス・オブ・ワンダーの塊のような一本。言ってみれば島民の日常を描くだけだが、人間はどこから来てどこへ行くのか……という根源的な問いにまで導かれずにいない。フラハティの精神を受け継いだ日本記録映画史の最重要人物、小川紳介は、キャリアの後半に農と食をテーマとした。山形県牧野村の生活と風土を描いた『ニッポン国 古屋敷村』は日本の農業映画の最高峰。科学と神話、それぞれの視点を自在に往還する。原村政樹監督の『天に栄える村』は、震災後のフードドキュメンタリーの最も貴重な一本。放射性物質降下のあと、米の生産と消費をめぐるプロセスを一から見直し、再生のための確かな一歩を踏み出す米農家たち。その姿に感動しつつ、多くを教えられる。首都圏の幼稚園のママたちと米農家の張り詰めた対話シーンには身を乗り出さずにいられない。
現在の食の状況について考えるための本として推したいのは、ポール・トンプソン『食農倫理学の長い旅』。何が正しいのか、という倫理の問いを徹底的に掘り下げる。正直、読みやすい本ではないが、現代社会の複雑さに見合った複雑な議論に、あえて一度、徹底的に付き合ってみることは現代人にとって絶対に必要なこと。最後に、丸元淑生『何を食べるべきか』。現代栄養学の観点から、日本の伝統的な食事がいかに理想的だったか、それをどう再生すべきかを説く。議論にやや偏りはあれど(そこはトンプソン本を参考に各自修整したい)、丸元の透徹した理想主義はいまも古びていない。