関西からニッポンフードシフト

農の担い手を未来へ繋ぐ

高校生が、
まさかの日本酒づくり!?

取材・文/天野準子 
写真/エレファント・タカ

「いつか、生き物たちが集う有機農法にもトライしたいね」

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校内の実習場。農薬・化学肥料を通常の5割以下に減らし、周囲への環境負担を減らす。

滋賀の長浜農業高校と地元の酒蔵[冨田酒造]がタッグを組んで、日本酒造りに取り組んでいる。
酒米から酒蔵まで、オール滋賀尽くしの、究極の地酒づくりプロジェクトって?

日本酒が飲めない
高校生とコラボ。その狙いとは?

日本酒『長農高育ち』造りが始まったのは2007年。長浜農業高等学校農業科の先生から「授業で酒米を育てたいので、それでお酒を作りませんか」と『七本鎗』で知られる[冨田酒造]十五代目蔵元・冨田泰伸さんに打診があったことをきっかけに、学生とのコラボレーションをスタート。[冨田酒造]は、それまでも奥伊吹山系の伏流水と地元の篤農家による減農薬栽培の酒米を使用し、地元のテロワールを大切に酒造りを行っており、もちろん快諾。滋賀県の酒米、吟吹雪(ぎんふぶき)を栽培してもらうことになった。

「自分たちが育てた酒米が実際に酒蔵で醸造され、販売されることで、作物が加工品になる姿を知ることができる。卒業後も農業を続けたいと思うモチベーションに繋がっていけばと思いました」と、冨田さん。食用米に比べ酒米の稲は、気候の影響を受けやすかったり、病気に弱かったりと繊細。酒米栽培は農業科の2年生、3年生の授業で行われているが、春休みも夏休みも当番制で世話をしている。

とは言え、本人たちはまだお酒が飲めないわけで、自分が携わった『長農高育ち』を買っておいて、二十歳になったら飲むのを楽しみにしていたりするのか?と思ったりもしたが、それは飲兵衛の発想だったよう。「え、置いておくなんてことできるんですか。考えたこともなかったです」「稲の大きさや形、性質も食用米とは全然違うのが新鮮」「種の変化を見ていくのがおもしろい!」と、今は純粋に酒米を育てることに一所懸命の様子。

「生徒さんたちには酒米栽培をはじめ、農業は食のベースを作る大切な仕事だと、わかってほしい。育てた農作物がその後、料理されたり、加工品になったりしますが、スタート地点で右にふるか、左にふるかで後々にまで影響してきます。あ、でも今はまだわからなくてもいいんです。僕も高校時代、そんなん考えてなかったし(笑)。大人になって思い出してくれたらそれでいいと思ってます」と、冨田さん。そんな若者たちへの希望も込められた酒だと思うと、旨さも増すな。

優しい米の旨みと柔らかさを持つ滋賀原産の酒米、吟吹雪を使用。『七本鎗』シリーズの中でも、繊細な味わいで、焼魚やお浸し、刺し身など、素材を生かすシンプルな料理によく合う食中酒。長浜市内の酒販店をはじめ、[冨田酒造]で購入できる。校章ラベルゆえ、地元の同窓会シーンでも喜ばれるそう。
『七本鎗 純米無濾過火入れ 長農高育ち 』1.8ℓ 3,300円。

日本酒造りで出来た酒粕で奈良漬も!

農業科では瓜の栽培も行われていて、夏には、[冨田酒造]の酒粕を使って瓜の漬け込みが行われる。日本酒は飲めなくても、自分たちが作った酒米を奈良漬で味わえるのだ。

コラボ日本酒『長農高育ち』が
できるまで

  • 5月/田植え

    苗を購入する農家が増える中、こちらでは生徒が種蒔きから行い、育苗。5月に田んぼに植えていく。

  • 10月/収穫

    草刈りや肥料散布など、夏休みもお世話し、10月上旬に収穫。「今年は収穫量が多そう」と、先生も笑顔。

  • 10月/籾摺り

    脱穀した酒米を籾摺り機に入れ籾殻を取り除き、玄米の状態で袋詰め。出荷まで、生徒の手で行われる。

  • 後は頼みます!

    バトンタッチ

    長浜農業高校から冨田酒造さんへ工程をバトンタッチ。ここからは日本酒造りが始まります。

  • 11月/洗米

    玄米の表層部を40%削った後、洗米。吟吹雪は水を吸いやすいため、ほかの酒米より浸水時間は短め。

  • 11月/蒸米

    米のデンプンを糊化。吟吹雪は溶けやすい性質のため注意を払い、ある程度の硬さを保つよう蒸し上げる。

  • 11月/麹づくり

    蒸米に麹菌をふりかけ、繁殖。できた麹と蒸米、水、乳酸によって酒母造り、もろみ仕込み、上槽に続く。

  • できたー!

    完成!

    コラボ日本酒『長農高育ち』が完成!

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