九州と韓国の間の玄界灘に浮かぶ国境の島・対馬(長崎県)。豊かな自然が残るこの島で、住民によって受け継がれてきた里山の営みを、体験することで後世に伝える取り組みをしているのが、一般社団法人「対馬里山繋営塾(けいえいじゅく)」です。地域の自然、歴史、文化を活かした農林漁業体験民宿(農泊)での生活体験や農林漁業体験を提供。対馬の資源や魅力、誇りを発見し、それを活かして暮らす豊かさを後世に繋ぐことを理念に掲げ、事業を広げています。
対馬は、島の約9割を占める森林や、複雑に入り組んだリアス式海岸など、雄大な自然にあふれています。繋営塾の代表理事を務める川口幹子(もとこ)さんは、島おこし協働隊として2011年に移住しました。活動を通じ、地域には豊かな自然から享受する暮らしや、その中で醸成された文化や風習など、たくさんの魅力を発見。しかし、地元住民でさえ、その価値に気付かずに暮らしていることを残念に感じた川口さんは、多くの人たちに魅力を伝え、同時に里山の保全の在り方などの課題も共有しようと、共に活動していた隊員と一般社団法人を立ち上げます。対馬グリーン・ツーリズム協会の事務局運営など活動範囲を広げる中で、対馬の営みを教育活動に活かしたいとの思いが強くなり、それを実現するには、旅行業として登録をして本格的に事業に乗り出す必要があると決意。「営み」を「繋ぐ」ことに注力しようと、2018年4月、新たな組織として対馬里山繋営塾を立ち上げました。
繋営塾は従来からの対馬グリーン・ブルーツーリズム協会の事務局運営の他に、「学べる観光」をコンセプトに、体験・滞在型の旅行商品の企画や運営をする観光事業、自然体験活動や地域活動を通じた、教育プログラムを開発する教育事業を柱に展開しています。農泊では、宿主と一緒に料理体験ができ、食卓も共にします。農業や漁業など、生業を活かした季節感たっぷりの郷土料理が並び、コミュニケーションが深まります。さらに修学旅行生の受け入れや、行政・企業の人材育成研修も受託するなど、活動の幅を広げています。
これまでに迎え入れた修学旅行生は1000人を超え、数多くの人々に体験の場を提供してきた川口さん。「農山漁村の教育力や包容力の大きさを実感しています」と手応えを感じています。