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夏のゲレンデ生まれの真っ赤なイチゴ

鳥取県と兵庫県の県境にある鳥取県若桜(わかさ)町。中国山地の山々に囲まれた自然豊かな町には、中国地方で2番目に標高が高い氷ノ山(ひょうのせん)という山が、2県にまたがるようにそびえています。この山には「わかさ氷ノ山スキー場」があり、冬になるとたくさんのスキーヤーで賑わいますが、オフシーズンの土地を有効活用しようと、ゲレンデの一角でイチゴを栽培しています。流通量が減る夏から秋にかけて出荷し、付加価値を高めているのです。冷涼な気象条件を好むイチゴの特性と、標高が高くて涼しいゲレンデという2つの特徴を活かして生まれた夏イチゴは、ケーキなどの業務用として需要が高まっています。

イチゴ畑は、氷ノ山の標高900メートルにあるゲレンデにあります。栽培するのは、スキー場を経営する山根政彦さん。オフシーズンのゲレンデの有効活用を模索していたところ、若桜町から特産品づくりとして勧められたのが夏イチゴの栽培でした。イチゴは気温が高いと酸味が強くなることから夏場の生産量が少なく、業務用は輸入で賄われている実態を知り、山根さんは栽培を決意。2011年、5アールに苗を植えました。しかし、自然に囲まれた中でのトンネル栽培は害虫に悩まされたり、大きさも不ぞろいだったりして、最初の数年間は製菓用よりもジャムなどの加工に回すことが多かったそうです。トライアンドエラーを繰り返しながら、10年がかりで一定の品質を保てる技術を確立。今では10アールで夏イチゴ用の2品種を栽培しています。クリスマスシーズンから春にかけて出回るイチゴに比べ、夏イチゴは果実が硬くてしっかりしており、日持ちするのが特長です。やや酸味が強いので、スイーツとの相性も抜群。国産にこだわる製菓店からの注文が多く、天候によっては要望通りに応えられないのが悩みです。山根さんは製菓店のほか、規格外はジャムやアイスクリームなどの加工品にして、インターネットで全国に発送しています。

収穫は7月中旬から10月末まで続きますが、11月になると氷ノ山には雪が降るので、スキー場がオープンする12月までに畑を平らにし、元に戻します。山根さんが栽培する品種は、育成者権を守るために毎年、新たな苗の購入が義務付けられており、種苗法の下での適正な管理になるのです。

夏イチゴは若桜町の小中学校の給食にも提供され、子どもたちから感謝の手紙が届きます。山根さんは「おいしいと喜んでもらえるのが何よりの励みです。町の特産品として品質を高められるよう、努力を重ねたい」と力を込めます。

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