高知県西部を流れ、「日本最後の清流」とも呼ばれる四万十川。この流域は、古くから農業が盛んでしたが、高齢化や担い手不足で耕作放棄地が増え続けていました。こうした中、自治体とJAが立ち上げた営農支援センター四万十㈱が、農家から預かった農地で「スマート農業」を実践し、成果を上げています。傾斜地が多く、圃場区画が狭いといった不利な環境でも、労働時間短縮や生産コストを削減。中山間地域の農業や景観を守る取り組みとして、農家の期待を一身に背負っています。
営農支援センター四万十は、旧・窪川町(現・四万十町)とJAが出資し、2005年に設立されました。当時は農地の8割が基盤整備をされていましたが、区画の平均面積が約14アールと狭いうえに、農地が分散し、作業効率を下げていました。さらに、農業用水の供給が不安定なことや、深刻な鳥獣被害なども重なり、農家の営農意欲を削いでいました。このような逆風の中で、営農支援センター四万十が始動。1年目は水田からの転作で大豆15ヘクタールを作付けました。それ以降は、高齢化で営農継続を断念する農家からの受託が年々増加。こうした傾向はますます増えることが予想されたため、2019年からは農水省が手掛ける事業の一環で、農作業の省力化を図るスマート農業の実証プロジェクトを始めました。
プロジェクトを進めるにあたり、経営と栽培管理ができるシステム「アグリノート」を導入。スマホで圃場とスタッフの現在地を可視化し、圃場間のスムーズな移動を可能にしました。これにより、リアルタイムでの生育状況の確認、収量の迅速な集計など、労働時間が短縮できました。並行して自動運転トラクター、初心者でもまっすぐに植えられる直進キープ機能付きの田植え機、農薬散布用ドローンなどのスマート農機を導入。その結果、労働時間は最も成果が出た大豆で40%、飼料用米では25~27%削減できました。こうした取り組みが奏功し、2023年は従業員数はそのままで、飼料用稲や大豆、ショウガ、サトイモなど合計で113ヘクタールの作付けを可能にしました。
「スマート農業で効率化を進めて収益を上げ、大切な農地を守り続けたい」と話す営農支援センター四万十代表の熊谷敏郎さん。四万十の農業と日本の原風景を未来に残す取り組みを続ける覚悟です。