佐賀県鹿島市七曲地区。標高200メートルに位置し、有明海を一望できる風光明媚な集落です。しかし、ご多分に漏れず、少子高齢化や農家戸数の減少によって、耕作放棄地が増え続け、景観を損ねたり、災害リスクが高まったりする危機に直面しています。この危機から集落を守ろうと、福岡県から移住したのが、「かしま自然農園」の代表を務める奥正好さんです。農業経験はありませんでしたが、地域住民の助けを得ながら耕作放棄地を再生し、ソバを栽培。収穫したソバは、自ら経営するカフェでスイーツにして提供するほか、そば打ち体験の受け入れなど、ソバの栽培を通じて耕作放棄地の再生に取り組んでいます。
福岡市でWeb制作やインターネットコンサルタントの仕事をしていた奥さんは、幼い頃から農業や田舎暮らしに憧れがありました。ある時、クライアントから農業を勧められ、七曲地区を訪れました。田園風景や有明海を見渡せる景観の美しさに心を奪われ、移住を決意。他の作物に比べて初心者にも挑戦しやすいことが決め手となり、ミカン畑だった場所でソバ栽培を始めました。しかし、生い茂る雑草や無数の石を取り除き、やっとの思いで整地した畑に初めてまいたソバは、土壌の栄養不足で不作。近隣の畜産農家からたい肥を分けてもらったり、肥料を増やしたりして、土づくりに注力した結果、待望のソバが収穫できました。
栽培と並行してカフェで提供するスイーツやそば茶の開発にも着手。そば粉100%のシフォンケーキをアレンジした「フルーツシフォンサンド」や、表面を焼いたシフォンケーキにハムやチーズ、はちみつをトッピングした「焼きシフォン」、焙煎したソバの実と塩をかけた甘じょっぱいプリンなど、ソバの魅力を引き出したスイーツが完成しました。景観を楽しみながらスイーツを味わえるカフェには、多くの観光客が訪れます。現在はキッチンカーで県外にも出店、ファンを広げています。
かしま自然農園は観賞用のソバも作付けており、開花期には鮮やかなピンクの花が畑一面に広がります。高齢者福祉施設の入居者が訪れたり、施設の職員が刈り取ってお年寄りへの花束にしたり、食べるだけでなく、愛でる楽しみも地域にお裾分けしています。
奥さんは「鹿島のみなさんにお世話になった分、恩返しがしたい。私たちの取り組みがビジネスモデルとして確立できれば、地方が抱える問題の解決につながるかもしれません」と話し、キャンプ場やバーベキュー施設の運営で耕作放棄地を活用するなど、ロケーションを活かす事業に挑み続けます。