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月面探査技術、リンゴ園で実を結ぶ

2024年1月。日本初の月面着陸に成功した探査機SLIMが、高精度のピンポイント着陸を達成したニュースが日本列島を駆け巡りました。日本の宇宙工学の技術力は、世界からも称賛を集めましたが、遠く離れた宇宙だけで利用される技術だと思うなかれ。なんと、リンゴの収穫にも、宇宙工学が活かされているのです。

月面探査ロボットの技術をリンゴの収穫に応用しているのは、人工知能(AI)ロボットのスタートアップ、輝翠 TECH(きすいテック)。仙台市に本社を置く輝翠 TECHは、東北大学大学院宇宙ロボット研究室で月面探査ロボットなどの研究をしていた、イスラエル出身のタミル・ブルームさんが代表を務めます。タミルさんは、東北で農業体験や旅行をする中で、重労働をする高齢者の姿や閑散とした古い街並みを目の当たりにし、心を痛めていました。自身が研究してきたロボットやAIで農家を助け、地域を活性化したいと思い、農家にヒアリングを開始。ロボットを必要とするニーズの多さに手応えを感じました。

リンゴ園の地面はでこぼこで、ぬかるむことも多い上、リンゴを入れると20キロを超えるコンテナを運ぶのは、重労働です。でこぼこでも、全地球測位システム(GPS)がなくても、カメラの画像を通して走行する月面探査ロボットの技術が応用できると考え、タミルさんは収穫したリンゴを運ぶロボットの開発に着手。改良を重ねた結果、AI搭載の充電式ロボット「Adam(アダム)」が生まれました。Adamの最新型は、コンテナを載せてボタンを押すと、集荷場所まで自動で運搬、コンテナを運んだ後は障害物を避けながら収穫場所まで自動で戻ります。さらにAIカメラが人の動きを察知、人の動きに合わせて後をついていくようにも設計されています。バッテリーは最大で8時間稼働、積載量は250キロなので、肥料や農薬などの運搬にも使えます。Adamを使った農家からは「労力が削減されるので、規模を拡大したい」という期待の声が上がっています。

今後はさらに改良を重ね、アタッチメントの付け替えで除草や農薬散布などの自動化を目指すと共に、AIや画像処理技術を活かして最適な収穫時期や農薬・肥料の施肥量をデータで示すなど、スマート農業に取り組んでいきます。

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